―彼氏と彼女―




 俺と彼女の身長差、20センチ。


 俺を見上げる彼女の、小走りしたせいかほんのり色づく頬、黒く艶やかなその瞳を見ていると、おかしくなりそうで。

 俺は気付かれないよう大きく息を吸うと、彼女の手を掴んだ。



「コンパスの差だな」


 からかうように言った俺の言葉に、彼女は口を尖らせる。
 そんなそぶりに俺はまたまた心を掻き乱され、掴んだ手を引き寄せ、彼女の耳元に唇を寄せる―――。





「……今すぐキスしたい」




 彼女が驚き逃げようと手を引くのよりも早く、その手をさらに強く握り、そのまま人のいない本棚の奥へ早足に向かう。


 彼女は声を発しない。

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