―彼氏と彼女―




「沙智?」



 目の前に立ち呼びかけるけど。

 彼女は俯いていて返事をしない。




 小さく溜息を吐いて、もう一度ハッキリと呼びかける。




「沙智」






 瞬間、ビクリと体を震わせて、やっと顔を上げた。





「言わなくて、悪かった」






 俺の言葉に瞳からは零れ落ちる程の涙が溢れ出て。



「……行っちゃうの…?」



 愛らしいその唇から発された言葉に、俺は頷いた。

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