ずっと、傍に。【Side He】 完
『何で勝手にそんなことするんだよ……』
『ご…ごめんなさい由紀くん、怒らないでっ…!!ま、また浮気されちゃったらって心配で…』
そのときは、まだいいと思った。
ああ、彼女はまだ心配なのだと。深い傷を負わせたのだと。
償わなければならないと、感じただけで。
彼女の真実(ほんとう)の狂気に、まだ気づけなかった。
彼女はそれ以来、定期的に僕の携帯をチェックするようになった。
それはひどく煩わしく、またアドレスを勝手に削除したこともあった。
僕がまだ読んでいない新着メールを削除したことも。
それでも、怒ってはいけないと思った。
彼女をそうしたのは僕なのだから、怒ってはいけない。
態度で示すべきだ、と。
『ねえ由紀くん、もうこの海谷くんと村田くんって人と、関わらないでほしいな』
そしてついに彼女は、僕の交友関係にまで、口を出してきた。
『…何で』
『この二人、しょっちゅう由紀くんを遊びに誘うでしょ?そのときに、女の子が寄り付いてこないかなって心配なの。
あと、この二人って遊び人なんでしょ?こんな人たちと関わってちゃいけないよ』
海谷も村田も、僕が一番つるむ友達だった。
二人とも確かに女遊びはひどいけど、それはただ単に好きが持続しないというだけ。
それに、二人ともとてもいい奴で、僕はこの二人と過ごす時間がすごく好きだった。
『…関係ないじゃん。友達関係にまで、口出すなよ』
『わ、私はただ心配してるんだよ?!』
『そんな心配いらねーっつってんの!!』
そのとき、初めて僕が大声を出した。
今まで溜まっていた鬱憤が、全て吐き出されたかのように、彼女を罵倒する言葉はとまらなかった。
こんなこと言ってはならないと思うほど、辛辣な言葉が口からあふれる。
『…ごめんなさい……』
彼女は、透明な涙を流し、土下座までして僕に謝った。
そのときふと冷静になったのを覚えている。
『ごめんなさい由紀くん…お願い、捨てないで……』
泣く彼女を哀れに思うと同時に、僕の中の彼女への愛情はこのとき消え失せた。