32回、好きって言うよ。
放課後、用があると先に帰ってしまった美紅。
あたしは1人で廊下を歩いた。
居残りをしてやっと終わらせた数学の宿題を、職員室に出しに行くつもり。
と、通りかかった教室から聞こえた“翼”という言葉に立ち止まった。
そこは3-2の教室。
翼先輩のクラスだ。
見えないけど、声からして中にいるのは翼先輩と友達の河合先輩みたい。
「翼、如月ちゃんに告白されたんだって?」
如月って、あたしのことだよね。
噂になってるのは知ってたけど、自分で直接聞いてしまうのは初めてで。
しかもそれを本人の口から、なんて。
だけど気になって、逃げることもできない。
「そうだけど」
「どうすんの?結構可愛がってたじゃん」
…可愛がられてたのか、あたし?
いや、そんなわけ無い。
とりあえず睨まれるか罵られるかだし。
でも、やっぱり優しいから助けてくれたりはする。
「どうって、断るけど」
わかってはいたけど、その言葉に視線を落とす。
別に、返事はいらないのに。
あれは伝えたかっただけで…。
OKもらえるなんて思ってないけど、いつか。
いつか同じ気持ちになってくれたらどんなに幸せなんだろう。