彼と彼女の場合
彼女があんなことを言うなんてはじめてだった。

いつも俺を気遣ってくれて、どこか遠慮していたような彼女。

そんな彼女がこんな時間に会いたいなんて言うんだからきっと何かあったんだ。
行ったところで理由は話してもらえないかもしれないけど、どうしても心配でじっとしてはいられなかった。


「もしもし、愛果?前にいるよ」

彼女の家の前に車を止めて電話をかける。

すぐに彼女が出てきた。


「愛果、とりあえず乗ってくれる?」

最近は夜になると肌寒くなってきたし、彼女に風邪をひかせる訳にはいかない。

「はい…」

助手席に乗り込んだ彼女はどう見ても元気がない。


「愛果?」

俺の呼び掛けに顔をこっちに向けた彼女は無理して作っているのが丸分かりだった。

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