彼と彼女の場合
「ごめんね愛ちゃん。まったく舞は愛ちゃんいじめて楽しんでるんだから」


「大丈夫ですよマスター。もういい加減なれましたから」


私がここでバイトをはじめたのは高校生になってすぐ。

そのときには舞さんはもうここで働いていて、

いつも「本日のセット」を注文してくれるあのお客様はすでに常連客だったらしい。


注文していたのはケーキセットだったけど…


「本日のセット」がメニューになって二月程たった頃から、来店すると必ず注文してくれるようになっていた。


もちろん趣味程度だったはずの私の作ったケーキを気に入ってくれてるのはうれしいし、自信にもなる。


「愛ちゃん、呼ばれてるよ?」


マスターに言われて目線を上げるとクイッと顎で前を見ろ、と合図されて…


その先には窓際の席で私に手招きするお客様が……


「えっ…呼ばれて…ますね」


戸惑いつつ答えると、

「いっておいでよ」

と、軽く言われてしまった。
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