【番外編】惑溺 SS集
かたり。
玄関の方から聞こえた物音に膝の上の本から顔を上げる。
「おかえりなさい」
リビングのドアが開くのと同時にそう言うと、部屋に入って来たリョウは私の顔を見てくすりと肩を上げて笑った。
「主人の帰りを待ち構えてた犬みたいな顔してる」
すらりとした長身でソファーに座る私の事を見下ろしながら、顔にかかる前髪をかきあげて意地悪に微笑む。
「ひどい」
リョウが主人で、私が犬?
確かにリョウが帰ってきたのがうれしくて、自然と笑顔になってたかもしれないけど。
なんだかずっとリョウの事を待ちわびていたみたいで、悔しい。