【番外編】惑溺 SS集

　
私がめずらしくお店に来たのは、今日が貸切営業だったから。
いつもは深夜まで営業する土曜日の夜。

『今日は日付を超える前に店を閉める予定だから、後片付け手伝いに来いよ』

なんて言われてそのつもりで閉店後の店に来てみたら、もうすっかり店内は片付き、リョウは最後のグラスを洗っている所だった。

「片付けの手伝いに来たのに、私なにもする事ないね」

手持無沙汰で、カウンターの一番端のスツールに腰かけながらそう言うと、

「たまには店でふたりで飲むのもいいだろ」

リョウはきゅっと音を立てて布巾でグラスを拭きながらちらりと私の方を見る。

付き合ってからなんとなく気恥ずかしくて営業中の店に来る事のなかった私に気を使って、わざとお店に呼んでくれたのかな。

なんて、少しドキドキしながらグラスを片づけるリョウの後姿を見ていると、

「何飲む？」

彼が振り返って私に聞いてきた。