【番外編】惑溺 SS集
そのため息の原因は、先週末の出来事。
いつものように週末リョウの部屋で彼が帰って来るのを待っていた。
仕事から帰ってきたリョウに、『来週は社員旅行なの』そう言った途端、急にリョウの機嫌が悪くなった。
『ふーん。社員旅行? 社員皆で温泉浸かってなんの意味があんの?』
確かに。
社員旅行なんて古くさい行事、私だって大した意味があるとは思えないんだけど。うんざりしたようなリョウの口調に、少し苛立った。
『しょうがないでしょ。毎年全員参加って決まってるんだから。会社に勤めてたら、そういう無意味な事もいっぱいあるんだよ』
会社に勤めた事がないリョウには分からないよ、とため息をつきながら呟くと、
『分かりたくもないね』
まるで私の事なんか切り捨てるみたいに、びっくりするほど冷たくリョウの声が響いた。
ソファーに腰掛けたまま、私の方を見向きもしないリョウ。
その態度に、カッと頭に血がのぼった。
床に置いてあったクッションをその綺麗な顔を目掛けて力いっぱい投げつける。