【番外編】惑溺 SS集
「ね、リョウ。このカクテルの名前なんていうの?」
そうやって尋ねたのはこれで何度目だろう。
聞くたびにリョウは『教えない』と言って意地悪に微笑むんだけど、
それでも繰り返し聞いてしまう私。
そうやって勿体ぶるからには、カクテルの名前になにか意味があるんじゃないか、なんて余計に気になってしまう。
グラスを顔に近づけて、微かに感じるアーモンドの香りをかぎながらカウンターの中のリョウを上目づかいで見つめてみた。
目が合うと、リョウは私を試すように微かに顔を傾け、冷たい微笑みで見下ろした。
「そんなに教えてほしい?」
「教えてほしい!」
「どうして?」
「だって、いつも教えてくれないから余計に気になるし。他のお店行った時このカクテル注文できないでしょ?」
「……へぇ。他の店でこのカクテル飲みたいんだ?」
リョウが意味深に微笑んで、ゆっくりとカウンターの中から出てきた。