【番外編】惑溺 SS集
『もう、帰る!!』
私が投げたクッションを片手で軽々と受け止めて、面倒くさそうにため息をついたリョウ。
そんな彼に背を向けてコートと荷物を掴むと、そのまま玄関に向かって一直線。
私の怒りをアピールするためにわざと大きな音をたてて、リョウの部屋のドアを閉めた。
一人夜の道を歩きながら、もしかしたらリョウが私を追いかけてきてくれるかも。
なんて期待をしながら、地下鉄の駅までの道をいつもよりゆっくり歩いたけれど、リョウは追いかけてはこなかった。
それどころか、メールも電話も。
一切連絡を取らないまま迎えた金曜の夜。
こんなケンカをしたままで社員旅行に行くのはすっきりしなくてイヤだけど、私は悪くないんだからしょうがない。
リョウが悪いんだ。向こうから謝ってくるまで私は絶対許さないんだ。
「……はぁ」
ついても、ついても、尽きることのないため息。
ため息をつくたびに幸せが逃げるのなら、私の幸せの持ち分は限りなくゼロに近いと思う。