【番外編】惑溺 SS集
「……リョウのバカ」
ベッドの上の枕をグーでパンチしながら、誰もいないアパートでひとり小さくつぶやいた。
リョウのバカ。
リョウのバカ。
リョウのバカ。
そう言いながらどんなにパンチを繰り出しても、柔らかい枕はポスポスと気の抜けた手ごたえしかなくて、繰り返すほど情けなくなってきた。
些細な事でくだらないケンカをする私達。
リョウの分かりにくい性格も冷たい言動も大キライなのに、
こうやってリョウの事を思い浮かべるだけで、胸がきゅんと苦しくなる自分が、一番バカだと思う。
今まで殴っていた枕を、ぎゅっと抱きしめてベッドの上で転がった。
「リョウのバカ……」
会いたいなぁ。会って、ぎゅって抱きしめて欲しい。
なんて、本人に直接言えるほど素直でも可愛くもない私は、会いたい気持ちを誤魔化すために、きつく枕を抱きしめて大きなため息を吐き出した。