【番外編】惑溺 SS集

『いや、べつに』
「……ね、今お店?」

仕事中に電話なんて珍しい。
しかも忙しい金曜日のこの時間になんて。
そう思い、時計を見上げながらたずねると、

『いや、家。今日は店休みにした』

と、リョウは掠れた声で静かに言った。

「もしかして、リョウ具合悪いの……?」
『いや、大丈夫』

そう素っ気なく言うけど、具合も悪くないのにリョウが理由もなくお店を休みにするわけがない。本当は風邪でもひいたんじゃ……。

「ねぇ、リョウ。これから家に行ってもいい?」

不安になって言った私に、

『ああ、いいよ』

リョウは電話の向こうで小さく笑った。
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