ソプラノ
第四楽章ー音楽一家ー
「亜美ちゃん、彼氏さんへのプレゼントどんなのにするの?」
「時計にしようかなーって思ってるんだ。」
「時計?」
「うん。あいつ時間にルーズだから!もうはたちなんだから、しっかりしなさい!って意味で。」
亜美の彼氏は大学生。近所に住む幼なじみで、高校入学と同時に付き合い始めた。
「あ、あれ一ノ瀬奏夜のお父さんだ。」
亜美は一枚のポスターを指差しながら言った。
そこには指揮棒を振っている男性が写っていた。
「一ノ瀬孝行autumnconcert(オータムコンサート)。」
「このコンサート、明日みたいだね。」
「本当だ。」
「しかも、一ノ瀬奏夜も出るみたいだよ。」
ポスターのピアノ奏者の欄には奏夜の名前が書かれていた。
「一ノ瀬君、ピアノやってるんだ…」
明日、一ノ瀬孝行の指揮で一ノ瀬奏夜は演奏する。
大勢の観客の前で、演奏する。
違う世界の人。
改めてそう思った。
「行こう、亜美ちゃん。」
そう言うと、鈴芽はスタスタと歩き出した。
「あ!待ってよ鈴芽!」