ソプラノ
第六楽章ーお前も同じー
「チュン子、お前何でここにいるんだ?」
「そ、それは…、たまたま、通った、だけ…。」
「…そうか。」
少しの沈黙の後、
「一ノ瀬君、ピアノ、演奏しなくていいの?まだ、コンサート終わってないよね?」
そう言うと、奏夜は少し驚いているようだった。
「あたし、聞いちゃったんだ。一ノ瀬君の家のこと…。」
「それは…」
一ノ瀬の言葉を遮るように鈴芽は続けた。
「ごめんね。迷惑だったよね。一ノ瀬君とあたしは身分とか全然違うのに、何にも考えないで友達になろうとか言ってさ。ほんと、バカでごめん。でも、一週間楽しかった。ありがとう。」
そう言うと鈴芽は公園の外に向かって歩き出した。
「チュン子、ちょっと、待っ…」
「奏夜様、お父様がお呼びです。」
奏夜の後ろから黒いスーツを着た男性が話しかけた。
一ノ瀬家の使用人の一人だ。
「ちょっと待て、俺はチュン子と話してから!」
「すぐにお戻りをとのことです。」
男性は奏夜の背中に手を回し、会場に戻るようにと促す。
「チュン子!月曜日の放課後、屋上に来い!絶対に来いよ!」
鈴芽は返事をせずに、そのまま歩いて行った。