ソプラノ
「もうこんな時間か。今日はこれぐらいにして帰るか。」
「うわっ!本当だ、もう6時。」
「…しかし、全然終わりが見えねーな。」
「また明日、頑張ろうよ…」
そんな会話をしながら、資料室を後にする。
靴を履き替えて外に出るとまだ辺りはうっすらと明るい。
「まだちょっと明るいね。」
「9月だしな。」
「昼間は暑いけど、夕方になるとやっぱり肌寒いなー。」
鈴芽はそういいながら薄手のカーディガンに袖を通した。
「それ、貸せよ。」
「それってカーディガン?寒いの?」
「違う。カバン。着づらいんじゃないの?」
「え、あ、うん!着づらい!」
「持っててやるから。」
「ありがとう!」
お礼を言うと肩に掛けていたカバンを奏夜に渡した。
「一ノ瀬君て意外と優しい!」
「意外とは心外だな。」
「だって意外なんだもん!」
「お前なぁ…」
「よし、一ノ瀬君ありがとう、カバン、持つよ!」
鈴芽にカバンを渡したのは丁度校門だった。
「じゃあ俺こっちだから。」
「うん、また明日ね!」
「ああ、また明日。」
この日から始まった恋を、
まだ誰も知ることはなかった。