ソプラノ
ー3日後
「完璧。」
「思ったより早く終わったね。」
「俺の計算に狂いはない。」
「一ノ瀬君最後の方ホウキで掃いただけじゃん…」
「手が雑巾臭くなるなんてごめんだ。」
「もう!どこのお坊っちゃまなのよ!」
「え、だって俺…」
「え?何?」
「いや、何でもない。」
奏夜は自分に何か隠しているみたいで気になったが、鈴芽は何も聞かずに帰り支度を始めた。
「まだ5時か…」
携帯の画面を見ながら奏夜が呟いた。
「お前さ、このあと予定あんの?」
奏夜からの唐突な質問だった。
「え?特に何もないよ?どうして?」
「俺さ、行ってみたい場所があるんだけど、お前、ちょっと付き合え。」
「え?」
奏夜の意外な言葉に鈴芽は驚いてすぐには返事が出来なかった。
「おい、聞いてんのか?」
「う、うん、聞いてるよ!行く!」
「よし、じゃあ行くぞ!」
そう言うと足早に資料室を出ていく。
「えっ、ちょっと待ってよ!」
慌てて鈴芽も後を追った。
「あ、それと、お前のことはこれからチュン子って呼ぶからな。」
「…チュン子?」
「雀だからな。」
初めて名前を呼ばれた瞬間だった。
でも、それ以上に奏夜が自分の名前を覚えていたことに驚き、嬉しかった。
「もー!鳥じゃないよー!」
口調とは反対に、顔は笑っていた。