社長の旦那と恋い焦がれの妻(わたし)
「社長」
「あぁ」
「何かありましたか?」
「いや」
書類から視線を外さないまま串田からの問いに答えると、そんな事ないでしょう?と串田は呆れたように呟き、
「先ほどから携帯ばかり気にしてるようですが…、それは当然奥様の事ですよね」
そう言い俺のデスクに近寄り眼鏡の奥の目も、口角も、意味深な笑みを浮かべている。
「なんだ」
「もしや奥様と喧嘩でもされたのではと思い」
「いや、してない」
串田の言葉を遮るようにキッパリそう言えば、喧嘩でないならなにがあった?と言わんばかりに、俺がまだ手をつけていない書類の山に視線を向けた。
仕事に集中出来ない理由。
――言えるわけがない。
優子からのメールが来ないからソワソワしてるとは流石に串田相手とは言え…。
最近昼になると優子にやりとりする事が日課になっている。