社長の旦那と恋い焦がれの妻(わたし)
「良かった」
二人っきりになった途端にお母さんはそう呟いてから、セットが崩れない力で私の頭を撫でた。
「お母さん…?」
「こんなに大きくなって良かったって思って。お母さんね、優子の振り袖姿見たかったから。優子がうまれた時に誓ったのよ。この子の成人式の振り袖とウェディングドレスを見るまで死なないって」
順番は逆になっちゃったけどねとお母さんは笑ってから言葉を続けた。
「もう本当にこれで悔いはない。良かった、優子を育ててきて」
「悔いはないって…、そんな言い方じゃまるで」
――誓った事が叶ったからこれでいつ亡くなってもいいみたいに聞こえる。
そんな風には聞こえたくないのに、お母さんの言葉は遠回しにそう言っているようで嫌だ。