社長の旦那と恋い焦がれの妻(わたし)
けれど、良い機会だった。
場所はどうあれこれから話し合う事が出来て、楽しみな事も増えて、勿論小麦粉の匂いがする拓斗さんに抱きしめられた事も。
「そろそろ戻った方が良いか?」
拓斗さんは中途半端になったキッチンに視線を向けて力を緩めたけれど、私が動こうとしないのに気付き不思議そうに私を見つめた。
「あの、もうちょっとだけ…」
「優子?」
「もうちょっとだけこのまま抱きしめられてたいです…。餃子を完成しなくちゃいけないのは分かってます。分かってるけど、まだ離れたくないです」
もう少し拓斗さんの胸に顔を埋めていたい。
もう少しぎゅーってしてもらいたい。
「駄目、ですか…?」
「そんな訳ないだろう?」
そう言ってくれた拓斗さんに笑顔を向けた私は、ぎゅーってしてもらいたいと思ったはずなのに自分から拓斗さんをぎゅーっと、思う存分拓斗さんに抱き着いた。