社長の旦那と恋い焦がれの妻(わたし)
背中を押してもらったことで漸くいってきますを言える状態になった時、何かお母さんに言い忘れたような気がして、玄関から出た右足を引っ込めくるりとまわす。
「ミルクの時間教えたっけ?」
「さっき聞いた」
「そっか。あっ、オムツの場所だけどね!」
「それもさっき聞いた。あのね、優子をこんなに大きくなるまで育ててきたんだから大丈夫。そんなに心配しなくても。こっちは何年子育てをしてきたと思ってるの?」
だって、心配なんだもん。
お母さんがいるから大丈夫だと思っていても、瞳子と離れる事が、そして一人っきりになる事が不安で仕方ない。
「そこまで思うなら行くのやめる?」
「え」
「無理して行くことない。飯田さんに渡すプレゼント諦めたらいいじゃない」