ダイヤの誘惑
ああ、それか。
やっと見つかった。
小さく安堵の息をつく。
最近になってなくしたことに気づいて、必死になって探していたものだった。
どうしても見つけなければいけなかった。
だって、あれはこの前の誕生日、彼からプレゼントされたものだから。
彼とはフロアが違いこそすれ、同じ会社で働く。
同期入社だった。
経理部で働く彼と販売部で働く私に、仕事上で接点を持たないわけにはいかない。
ピアスをなくして以降、気まずくなり。
関係がこじれかけて、さらにぎくしゃくして。
もろもろの請求書を経理部に提出に行く時、彼がいるかどうかをいちいち確認してからという手間を踏んでいた。
そのピアスをそんなところで忘れていたなんて。
シャワーを借りた時に外したんだろう。
思いあたらないわけではなかったけど、忘れていた場所がそこでよかったと思う。
少し考えてから、返信メールを入力する。
『それを口実に、また家に行けるね』
今夜、私は年下の彼のマンションを訪ねるんだろう。
そして。
二度目は、故意に忘れてくるのだ。
【完】