海の城 空の扉
「かつてはここも一面の畑で、地平線の辺りには豊かな森があった。十年前の戦で全て焼けてしまったのだ」

「ずっとそのまま……十年もたっているのに?」

「森から焼け出された獣達は、なけなしの畑を荒らし、疫病をもたらした。広い土地を耕すだけの人手はもうない」


ラドリーンは呆然と荒れ野を見つめた。

右側に明かりが見えた。

民家がいくつかあるようだ。


「あの村は?」


「あそこは『死者の家』ですな」

マスタフがラドリーンの横に立って言った。

リナムがもがいてマスタフの腕を抜け出すと、ラドリーンの胸元に飛び込んできた。

「疫病にかかった者が流れ着いて住んでいるのですよ。城壁の外にはああいった場所がよくあります」


「治療所ということですか?」

「いいえ。ただ横たわり死を待つ場所です」


病の軽い者が重い者の世話をするのだという。

病から回復した者は二度と疫病にかからない。子供の中に、ごく稀にそういう子がいる。
アルフレッド卿はそうした者に『死者の家』まで食べ物を運ばせていた。

時折、煙と炎が見える時があって気が滅入ると、アルフレッド卿が言った。それは誰が死んだ印なのだと。

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