海の城 空の扉
黒猫は小さく喉を鳴らし、ゆっくりとまぶたを閉じた。

暖炉の薪がパシッとはぜた後、微かな音を立てて崩れる。火が弱まって部屋の中は少し暗くなった。


今は、何時頃だろう?


窓の木戸が閉じられているので、月の傾きは分からない。が、蝋燭の長さから見て、そろそろ真夜中ではないだろうか。

いつもならとっくに寝床に入っている時間だ。

そして、歌人が現れる時間――


扉をノックする音がした。

<侍女>が寝支度を手伝いに来たのだろう。

ラドリーンはいつものように返事をしなかった。

扉が静かに開いて、灰色の被り物と黒いお仕着せの服を身につけた女が入って来た。女はラドリーンを見ると、ヒッと息を飲んだ。

「失礼しました。火の始末に参りました」

無言で出入りする<影>達に馴染んでいたラドリーンは、落ち着かない気持ちで女を見た。

「まだお休みではなかったのですか」

女は俯きながら言った。

「ええ」

「皆様はもうお休みですよ」

「そう」

<侍女>もだろうか?

「夕餉の時、ワインは召し上がらなかったのですね」
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