海の城 空の扉
夕食に出されたのは上質の芳醇な赤ワインだった。少し口に含んでみたものの、軽い味の白ワインを飲み慣れたラドリーンの口には合わなかった。


だが――


「どうして、わたしがワインを飲まなかったと知っているの?」


女の口元に浮かんだ引き攣るような笑みを見て、ラドリーンは背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「ワインを飲んでいたら、今頃はぐっすりとお休みになっているはずだからですわ」

女はゆっくりと近づいて来て顔を上げた。

リナムが片目を開けた。

蝋燭の炎に照らされた顔には見覚えがあった。ここの城主夫人だ。

「本当に忌ま忌ましい魔女ね、ヨランナ」

奥方は苦々しげに言った。

「どうやって地獄から帰って来たの?」


「わたしは母ではありません」

ラドリーンは落ち着いた声で指摘したが、奥方の狂気じみた心には届かなかった。


「ねえ、どうやったの? どんな魔法を使ったの? 弟に毒薬を渡したのよ。貴女を殺して自分だけのものにしなさいって。なのに、どうしてその毒が王の口に入ったの?」


ラドリーンは目を見張った。

王の毒殺は隣国の謀略ではなく、テオドロスの仕業だったのだろうか? それとも王妃の?
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