海の城 空の扉
「あの後の事も悪かったと思っているわ。やり過ぎだったと反省している」


「あの後の事って?」


「知らないふりをしてもダメよ。ちょっとした出来心だったの。隣国の間者かもしれない商人に、夫が言っていた事を話してみたわ。主力を国境に配しているから王都の守りは手薄だって」

城主夫人の顔が歪んだ。

「まさかあんな事になるとは思わなかった。怒っている? 怒っているわよね。ねえヨランナ、許してちょうだい」


狂気を宿した瞳に恐怖を覚え、ラドリーンはリナムを抱いたまま立ち上がった。


「戦乱に巻き込まれて両親も、親族も死んでしまった。もう十分罰は受けたわ。許してちょうだい」


ラドリーンに向かって差し延べられた手が、キラリと光った。


「え……ええ、許すわ」

ラドリーンは後退りしながら言った。


「本当?」

「ええ、本当よ。だからそのナイフを床に置いてちょうだい」

「ナイフ? ああ、これ? そうね」


領主夫人は、床にナイフを置こうとした。


その時だった。


突然、何かが爆発したようなものすごい音がして、床が揺らいだ。
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