海の城 空の扉
アスタリスはゆっくりとマスタフを見た。

「それだけじゃない?」

「密猟だ。角が必要な時、一度に一頭だけという禁忌を破り、人間はユニコーンを狩り尽くしたのだ」

「疫病のせいで?」

「まさか。そんなものじゃびくともしないさ。ユニコーンの角が五本もあれば、今この瞬間、この国の疫病患者は全て救われる。何十頭も狩る必要はないだろう?」

アスタリスは無言で頷いた。

マスタフが言葉を継ぐ。

「俺がこっちに来て一番驚いた事はだな、ユニコーンの角が毒や疫病の薬ではなく、不老長寿の薬として珍重されていた事だ。ほら、俺のようなソフォーンから来た人間はこっちの奴らに比べたら、何年経っても見た目が変わらないだろう? それでそんな迷信ができたみたいだ」

「そうだとしても、そんなに簡単に狩り尽くせるものだろうか」

「王候貴族がこぞって手に入れようとしていたんだ。高値がつく」

「そんな事のために罪もない生き物を殺したと?」

「お前には分からんかも知れんが、こっちの人間は金儲けのためなら何でもやるんだ――今やユニコーンの姿はどこにもなく、疫病が蔓延している」


地面がグラッと揺らいだ。


その場にいた者達が悲鳴を上げた。


「俺がやってきた事は何だったのだ? 何のために?」

アスタリスは両手で顔を覆った。
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