海の城 空の扉
その時、後ろの方から中年の女性がふらふらと出て来た。

「兄さんだ……」

女性はそう呟いた。

白い服を着た人影は遠く、ラドリーンには誰が誰かなど見分けがつかない。

だが、女性は呼び掛けた。

「兄さん! にーいーさーん!」

女性の声に応えるように、遠くの白い集団の一人が片手を上げた。

女性は狂ったように両手を振った。

「まだ生きてた。まだ生きてるんだ」

泣き笑いしながら繰り返す言葉。

ラドリーンの中に、怒りにも似た何かが生まれた。

祈りが何になるだろう? どんなに正しい行いをしても、よい事が起きるとは限らない。天の国などまやかし。それが言い過ぎだとするなら、気休めだと思う。

「正義はどこにあるの?」

ラドリーンは独り言のように言った。

「あの人達は、なぜ疫病で死ななくてはならないの? もしも願いがかなうなら、あの人達を治してあげたい」

――うん。いいよ

ラドリーンの足元で、リナムがあっけないほど簡単に答えた。

ラドリーンは、ぱちぱちと瞬きしてリナムを見下ろした。


――バード、オイラがこっちに来る時に預けた袋ある?

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