海の城 空の扉
――護衛は多ければ多いほどいいってことよ

ラドリーンの肩でサラマンダーがリナムに言った。

「そういう事だ――全員に言っておく」

アスタリスは、はっきりとした声で言った。

「この姫の髪の毛一本でも傷つけるな」

夏空のような青い瞳が領主夫人を見据えた。

「もし何かあれば、俺はこの町を丸ごと滅ぼす」

それから、視線はテオドロスに移った。

「勝手に連れ去るようなことがあれば、この国を焼き尽くす。躊躇はしない。俺はこの世界の人間ではないからな」

「我が名誉にかけて、細心の注意を払います」

アルフレッド卿が頭を下げた。

「領主、シーツで構わぬが、清潔で大きな布を沢山用意しておけ」

アスタリスはそう言い残し、片手でラドリーンの頬を撫でてから竪琴を背負い直した。朝日を浴びて、色の変わる髪が黄金色に輝いた。

アスタリスが壊れた門扉を越えた途端、風を鋭く切るような音と共に、黒い巨大なドラゴンが空から舞い降りてきた。

大地が揺らいだ。

ゴオッという地鳴りの音がし、空が一気に暗くなった。

――扉だぁ……

リナムが空を見上げて言った。

青い空の一角に、大きく開かれた扉がぽっかりと浮かんでいた。

戸枠と扉板は真っ黒で、鉄でできているように見えた。向こう側にも空が広がっていたが、こちらの空より明るく、白っぽく見えた。
< 144 / 159 >

この作品をシェア

pagetop