海の城 空の扉
――あの向こうがソフォーン、オイラ達、幻獣の故郷だぜ

肩のサラマンダーが言った。

「そう。美しい所なのでしょうね」

――まあ、キレイっちゃあキレイかな。けど、退屈な場所さ。千年たっても何にも変わりゃあしねぇ

――退屈なんかじゃないよっ!

ラドリーンの足下で、リナムがぴょんぴょん跳ねて文句を言った。

――ラドリーンは、オイラと一緒に行くんだよ。ね? ね?


すると、ラドリーンの近くにいたテオドロスがギョッとしたように振り向いた。

「馬鹿な事を……ラドリーン姫は、ハルド王家の最後の血筋。この国の女王になる方だ。どこにも行きはしない」

テオドロスは揺るぎのない眼差しでラドリーンを見た。

「荒れ果てたこの国は、貴女が玉座に座るのを待っている。民衆を捨てるおつもりか?」

ラドリーンは言葉に詰まった。

捨てるもなにも、自分の出自を知ったのは、つい数日前の事だ。しかも女王になるような教育は受けていない。

何も知らない事。

与えられた境遇を受け入れる事。

それがラドリーンに課されていた日課だ。

望まれているのは、お飾りの君主である事――そのくらい、ラドリーンにも分かっていた。

以前なら、その立場を何の疑問もなく受け入れていただろう。

だが――

小さな妖精猫(ケット・シー)が一人前になろうと頑張っている。

不治の病に冒された人々が故郷を守るために立ち上がる。

自分はどうだ?
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