海の城 空の扉
ふと見ると、例の黒猫が階段を下りて行くのが見えた。

中空のテラスの端は手摺りひとつなく、崖のようになっていた。

さすがに立ったまま下を見るのは恐ろしい。

ラドリーンは燭台を置き、四つん這いになってテラスの端から下を見た。

暗くてよく見えないが、下には何もない。

階段の先には海があるだけだ。

猫が落ちて溺れても、ラドリーンには助けられない。


「ナーン!」

ラドリーンは下に向かって大声で猫を呼んだ。

「戻っておいで!」


微かに猫の鳴き声が聞こえた気がした。


どうしよう?

どうしよう?

海の近くに住んではいるが泳いだ事なんてない。

ましてや、屈強な男でも死ぬという冷たい夜の海など論外だ。


「ナーン!」


その時、頭上から光が差し込んだ。


見上げると、岩の隙間から満月が見えた。

月光はテラスの端を掠めて、下方の海を照らした。

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