海の城 空の扉
ラドリーンが問い掛けるように見ると、猫が頷いた。


――バードの名前を貰ったから、もうあげても大丈夫だよ


「名前のやり取りに何か意味があるの?」


「もちろん。名前は血や肉と同じく、その者の一部だ」

アスタリスはニイッと残酷そうな笑みを浮かべた。

「食えばさぞかし美味かろう」


ラドリーンはギョッとして固まった。


――からかうのやめなよ、バード

猫がため息混じりに言った。


「表情がくるくる変わって面白い。安心しろ。俺は人喰いではない」


――大丈夫だってば!

黒猫がラドリーンの横に座って言った。

――お互いの名前を知っていれば、呪縛の魔法にはかからないから。オイラはリナムだよ!


よく分からなかったが、ラドリーンは頷いた。


「わたしはラドリーン」


「ラドリーン」


アスタリスは名を味わうかのように繰り返した。

< 29 / 159 >

この作品をシェア

pagetop