海の城 空の扉
けれど今では、閉ざされた狭い空間に思えてしょうがない。


海の向こうに広い世界があるのは分かっている。

かつてはそこで暮らしていたのだから。


両親と兄がいたはずだ。


家族の事で覚えているのは、兄と駆け回った羊のいる草原、

ピカピカ光る父の剣、

そして炎に包まれた母の姿――


家族は死んでしまったのだろう。

誰もそうだとは言わないが。



「ようございますよ」


<侍女>の言葉にラドリーンは顔を上げた。

歪んだ鏡の中で<侍女>と目が合う。


「ありがとう」


ラドリーンは礼を言ったが、<侍女>はただ鏡の中で頷くだけだった。


<侍女>はラドリーンの身支度を終えると、部屋の中を点検し、一礼をして部屋を出て行った。

いつもの事だが、ラドリーンは自分が部屋の置物であるような気分になった。

<侍女>が自分の身の回りの世話をするのは、城の中を整える作業の一環に過ぎないのかもしれない。

< 4 / 159 >

この作品をシェア

pagetop