海の城 空の扉
「ん? これか?」

ラドリーンの視線に気づいて、アスタリスが言った。

「これはサラマンダー。火の幻獣だ」


サラマンダーは、スルスルとアスタリスの腕を下り、寝台の柱を登って行った。

蝋燭とは違う不思議な光が寝台を照らした。

アスタリスは肩の革紐を外し、竪琴を下ろした。

それから音を確かめるように、軽くつまびく。


「音を立てないで。誰かが来たらどうするの?」


ラドリーンが声をひそめて言うと、アスタリスはニヤリと笑った。


「城内には魔法がかかっている。雄鶏が時を告げるまで誰も目覚めはしない」


「わたしは目覚めたわ」


「そうだな。お前には魔力があるようだ。父御か母御が俺と同じ種族なのかな?」


「両親はいないの。どんな人だったのかも覚えていない」


「そうか……」


アスタリスは深く息を吸うと、竪琴を弾きながら歌いだした。


深みのある声が歌い上げたのは、過去の物語。

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