海の城 空の扉
「荒れた。海の彼方から海賊たちが攻めて来た。だが、誰も神王を呼ばなかった」

アスタリスは寂しげに笑った。

「時が経ち過ぎていた。神王はただの昔話となり、代わりに聖なる母と神の子が信仰されるようになっていた。誰も……誰も神王の名を覚えていなかった」


「それからどうなったの?」

「長い時が流れた」

「それだけ?」

「語れば夜が明ける」


ラドリーンは残念そうにため息をついた。


「もっと聞きたい」


アスタリスは振り返ってラドリーンを見た。


「いずれ、また」


ラドリーンは頷いた。

それから少しためらい、また口を開いた。


「リナムをどこかに連れて行くの?」

「時が来れば」


――オイラはどこにも行かないってば!

寝台の縁に前足を掛けてピョンピョン跳ねなながら、リナムが言った。


「こいつが何と言おうと」

アスタリスはリナムの首根っこをつまみ上げ、ラドリーンの膝の上に放り投げた。

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