海の城 空の扉
ラドリーンはアスタリスを見上げた。


「リナムを連れて行くのはもう少し先だ」


ラドリーンはホッとして、少し肩の力を抜いた。


「今度はお前が答える番だ。ここで何をしている?」


「何も。退屈だから城の中を見て回っていただけ」


「退屈か――リナム、ラドリーンの部屋に土産を置いてあるぞ」

アスタリスは、ラドリーンを見つめたまま言った。


――え、ホント? 何?


「生の鰊だ。先に行ってろ」


ラドリーンが『待って』と言う間もなく、リナムは全速力で走って行った。


「わたし……」

「何だ?」


アスタリスは、言い淀むラドリーンの手を取ると、蝋燭を吹き消してしまった。

暗闇が二人を包み込んだ。


「何をするの!」

ラドリーンは急に怖くなった。


暗闇の中、懐かしい香りがラドリーンを包んだ。

< 58 / 159 >

この作品をシェア

pagetop