海の城 空の扉
ラドリーンは夜空に浮かぶ月を見た後、悪戯心で鐘についている縄紐を引っ張った。

全体重をかけて縄紐を引き、手を離すと、鐘は思ったよりも大きな音でガランガランと鳴った。

翌朝、<侍女>が夜中に鐘の音がしなかったかと聞いた。

ラドリーンは笑いをこらえながら首を横に振った。

幽霊話は、こうやって生まれるものなのかもしれない。


「まずは蝋燭探しね」


ラドリーンの部屋にも蝋燭はあったが、<侍女>が数を数えているに違いない。


ラドリーンは、散歩を装いながら城の中を歩き回った。

時々、<影>の姿を見かけたが、老婆達は無言で目を逸らすように会釈するばかりだ。


三人の<影>をやり過ごし、ラドリーンは礼拝堂に入った。


ここには、蝋燭がたっぷりとあるはずだ。


正面の祭壇から、赤ん坊を抱いた聖なる母がラドリーンを見ていた。

それはよく出来た像に過ぎなかったが、ラドリーンの良心がチクリと痛んだ。


「ほんの数本借りるだけです」

ラドリーンは両手を組んで膝を曲げ、祭壇に一礼をした。

そう。『借りる』のだ。

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