海の城 空の扉
テオドロスは表情を曇らせた。


「神の御元に」


「亡くなったのですか?」


「王妃様は異教徒でしたが、きっと神も憐れまれて御側に召された事でしょう」


悲劇的な最期だったという。


事の発端は、この国と隣の国の国境争いだった。

10年前、3世代続いた不毛な争いを終わらせるため、両国の王は国境の砦で和平の話し合いを持った。

戦は終わるかに見えた。

だが、ラドリーンの父は和平交渉の席で毒殺された。

王に付き従っていた騎士達は激昂し、問答無用でその場にいた隣国の王子を切り殺した。殺戮は殺戮を呼び、両国は本格的な戦争に突入した。

一年に渡る戦争の後、ラドリーンの住んでいた王城は敵の手に落ちた。


「隣国の王は王妃様を側室に迎えようとしたのです。しかし、王妃様は首を縦には振りませんでした。元々、異教徒だという事もありまして、人心を惑わす魔女として火刑に……わたしは貴女を託され、この城に隠したのです」


あの光は火刑の炎だったのか――ラドリーンは痛む心でそう思った。


「兄が、兄がいませんでしたか?」

ラドリーンは両手をギュッと握りしめて尋ねた。

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