海の城 空の扉
「いえ、驚かせたわたしも悪いのです」

テオドロスは反対の手で傷を押さえながら言った。

「貴女があまりにも母上に似ておられるので、つい触れてしまいました」


"つい"?

ラドリーンは小首をかしげてテオドロスを見た。


「貴女の母上をお慕い申し上げていました」

テオドロスはポツリと言った。


「でも……母は……結婚前のお話ですか?」


「いいえ」

テオドロスは微笑んだ。

「ヨランナ様に初めてお会いしたのは、見習い修道士から聖騎士になったばかりの頃。その時はすでに王妃様でしたよ――貴女はよく似ておられる。気高くも美しい、わたしのヨランナ様に」

テオドロスは、ラドリーンを守るように威嚇するリナムを見た。

「思いのままに触れる事ができないところも」


それは、テオドロスの一方的な恋だったのだろうか?


「もちろん、ヨランナ様もわたしを愛しておられました」

ラドリーンの心を読んだように、テオドロスは言った。

「だからこそ、あの方は貴女をわたしに託されたのです。ああ、初恋さえまだの貴女には、理解できないかもしれませんね」


恋ならばしている。
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