海の城 空の扉
甲板の上が慌ただしくなって来た。

船員達が上陸の準備をしているらしい。

掛け声と共に、何本ものロープが陸へと投げられた。

岸壁側にも人がいて、ロープの端を岩のような物に結わえていく。

船が固定されると、船から陸へと板が渡された。

まだ少年のような水夫が軽々と板を駆け降り、二本の縄梯子を横にして、板の両脇にピンと張った。

ラドリーンが呆気に取られて見ているうちに、簡単な橋が出来上がった。


「姫様? 姫様?」

〈侍女〉の呼ぶ声がする。


返事をする前に、〈侍女〉がラドリーンを見つけた。


「お返事をして下さいませ」

〈侍女〉は顔をしかめて言った。

「下船いたしますよ。猫は――ああ、お預けになったのですね。賢明です」

ラドリーンは、返事はおろか、口を挟む事さえできなかた。

〈侍女〉はいつものように淡々と喋りながら、ラドリーンの服の乱れを直した。

「岸壁でここのご領主殿がお出迎えです。おどおどしてはいけませんよ。頭を下げてもいけません。姫様の方が位が上ですから。それからそこの騎士殿。猫を間違いなく連れて来てさいな」


「承知致した」

マスタフは生真面目に答えてから、リナムにそっと耳打ちする。

「お偉いさんになったじゃないか」


――うん……でもあの人、オイラをラドリーンのペットだと思ってるらしいんだ。ひどいよね

リナムもムニャムニャと小声で返す。

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