海の城 空の扉
「は? 何かおっしゃいましたか?」

〈侍女〉が怪訝そうな顔をした。


「いいえ、何でもないわ」

ラドリーンは笑いを堪えながら言った。



領主だという男は、驚くほど体の大きな男だった。

頭を下げるなと〈侍女〉言われるまでもない。首が痛くなるほど見上げなくてはならないのだから。

背の高さもさることながら、横幅もがっしりとしていて、まるで壁のようだった。


「テオ! テオドロス! この薄情者の義弟め」

領主は嬉しそうに言いながら、テオドロスの背をペシペシと叩いた。

あれはたぶん痛いだろう。

「司教様になった途端、ちっとも顔を見せん」


「不義理をして申し訳ありません。なにぶん職務が膨大なもので」


「俺は構わんがな、奥方が寂しがる。ローナにとっちゃあ、たった一人の身内だからな」


「姉にはあなたがいるじゃありませんか」


「家の都合で一緒になった粗野な夫では、かわいい弟の代わりにはなれんさ」


「ご冗談を。きっかけはどうあれ、身に余るほど大切にされて、姉も感謝していると思います」


「感謝されてもなあ」

領主は苦笑した。

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