海の城 空の扉
「ところで、使いの者の話では先を急ぐとか」


領主の言葉にテオドロスは顔をしかめた。


「それについては城に着いてから説明いたします。こちらの貴婦人のお供だとだけ言っておきましょう」


領主がラドリーンを見た。

鋭い視線に思わずうつ向きそうになったが、〈侍女〉の注意を思い出して堪えた。


「姫君、こちらはわたしの義兄のアルフレッド卿です」

テオドロスが領主を紹介した。

「義兄上、この方はラドリーン姫です。大変高貴な方、おそらくこの国で最も――そう言えばお分かりでしょう?」


領主は目を丸くした。


「まさか……今更……おい、テオ。正気か? 下手をすればまた内乱だぞ」


「"下手をする"つもりはありません」

テオドロスはうっすらと笑った。


「確かに風の噂で、エイローンが臥せっていると聞いてはいるが……侮るなよ。相手は歴戦の獅子だ」


「承知の上です」


その時、帆がはためく音がして、夕日を遮るようにサッと黒い影が落ちた。
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