Music In Us(TABOO)
お前、神に脚を開いてるのか。
劇団を主宰する演出家にそう言われて、私は狼狽した。もちろんそれは文字通りの意味じゃない。底意地の悪い言い方に、深く強い嫉妬を込めたのだ。
その演出家は私の恋人だから。
それ以来、私は神くんと魂を溶け合わせて歌うことができなくなった。
私たちの声は美しく重なるけれど、そこには何の化学反応も起きなかった。
だけど今夜だけは。
前奏が始まった。
神くんが舞台に飛び出していく。
その体から歌が迸る。
情熱的に狂おしく私を求めて神くんは叫ぶ。
次のパートは私のソロ、歌いながら私は舞台に踊り出る。
スポットライトの中に立つと、客席も舞台袖も闇のなかに沈み、聖獣のような神くんだけがそこにいた。
余裕をもって伸びやかに響く私の高音が、神くんの声を迎える。
神くんの首筋に力が入り、全身全霊で私の声に入ってくる。
そうして現れる、私たちの歌がここに姿を現す。
その美しさに眩暈がする。
神くん、これが音楽なんだね。
The Music in us.
(Fin)