宝物〜絆〜
「ああ。つか、キッチン貸してくれたらメシ俺が作るからさ。美咲は部屋で休んで来いよ」

 秀人はポケットから煙草を取り出して火をつける。

「いや、良いよ。悪いし」

「疲れてんだろ? 遠慮せずに休んで来いって。強引に押しかけてきて俺のメシまで作らせたくねえし」

 こんな時まで――、違う。こんな時だからこそ、秀人の何気ない優しさが目に染みる。

「大丈夫だよ。秀人こそ、引っ越し早々にバイトも始まって疲れてんじゃねえの? パパッと作るからおとなしく待ってな」

「やだ」

「ほえっ?」

 突然、駄々をこねる子供みてえな言い方をするから、思わず間抜けな声を出してしまった。

「やだっつったの」

 やっぱ駄々っ子だ。

 結局、本当に疲れてるって事と頭ん中を整理したいのもあって、断り切れずに休ませてもらう事にした。



   * * *



「美咲、出来たぞ」

 コンコンッと扉を叩く音とともに、秀人の声が聞こえる。もう、そんなに時間が経ったのか。

「ありがと。すぐ行くよ」

 私はベッドから起き上がり、思い切り伸びをする。

 大分気持ちも落ち着いたし、ある程度は考えも纏まった。もし何か聞かれても大丈夫だろう。

 一度、大きく深呼吸をして、寝室の扉を開けた。
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