宝物〜絆〜
「美咲? もしかして不味い?」

 完全に自分の世界に入り込んでいた私は、秀人の声で我に返る。

 一口だけ食って考え込んでたから、メシが不味くて箸が進まないのかと心配になったらしい。

「あっ、いや。スゲー美味いよ」

 私は素直な感想を述べた。

「本当かよ。なんか難しい顔してんぞ?」

「難しい顔ってどんなだよ。ちょい考え事してただけ。マジで美味いって」

 秀人のカレーは、お世辞抜きに美味い。

「そっか。なら良かった。ありがとな。で、考え事って何だ? バイト中の事か?」

 秀人はホッとしたような表情になって話題を変える。

 私からしたら完全な不意打ち。まさかこのタイミングでそれを聞かれるとは。まっ、秀人にしてみりゃそれが本題なんだろうけど。

「違うよ。秀人の事、考えてた」

 ここで変に隠すと別の意味で怪しまれるから、変に隠さず、でも冗談って思われるように、ニヤついた表情を作って言った。

「へっ? 俺の事?」

 秀人は驚いたような表情になって間の抜けた声を出す。

「そっ。秀人の事。やっぱ秀人は良い男だなぁ、って思ってさ」

「みさ……おま、いきなり何言って……、ええ?」

 動揺する秀人が、これまたスゲェ可愛い。

「秀人、可愛い」

 さらに表情をニヤつかせ、完全に話題をすり替えたつもりだったんだけど。秀人は突然素になってカウンターを喰らわせてきた。
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