宝物〜絆〜
「美咲、おやすみ。また明日な」

 秀人は優しく微笑んでいる。

「ああ、またな。おやすみ、秀人」

 私は、また“明日”とは言えなかった。

 でも必ず“また”があるように願いを込めて、もう一度、心の中で言い直す。

 またな、秀人。また一緒に遊ぼうな。おやすみなさい――。



     * * *



 そして朝が訪れた。出来る事なら昨日のまま、変わらない日々を送りたかった。

 でも、これは自分で決めた事。そして元は自分で蒔いた種。逃げる訳にはいかない。

 それに今日、バカ西が何かしてくると決まってる訳じゃない。あいつらと距離を置くだけだから。

 さて、行きますか。

 秀人には、今日のところは寝坊したっつって先に行ってもらっている。それなら自然に別々に登校出来るから。

 そして今日の学校での態度を見れば、明日から秀人が迎えに来る事はないだろう。

 玄関の鍵をかけて外を見ると、今にも雨が降りそうな雲行きだった。空気も湿気が多くジメッとしていて不快感がある。

 私が記憶している限りでは、毎年この時期によく雨が降る。梅雨入りはまだ先なのに、今が梅雨だと言われても納得する程、雨が降る時期。

 今がその時期のようだ。

 そんなどうでも良い事を考えながら学校に向かう。
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