宝物〜絆〜
 携帯で時間を確認すると既に九時を回っている。

 別に本当に寝坊した訳でもなければ、わざと遅刻しようと思った訳でもない。

 ただ何となくボーッとしていたら、予定より時間が経ってしまっただけだ。

 ちゃっかり待受に設定した、昨日の秀人との写メを眺めながら携帯を閉じる。

 学校に着き教室に入ると、一時限目の最中で、なよなよしてて頭の堅い――つまりあまり良い印象のない世界史の教科担任に思いっきり睨まれた。

 ちなみに宣言通りバカ西は来ていなくて、他は遅刻常習犯の大樹を含めて全員来ている。

 自分の席につくと秀人が話しかけてきたが、返事もしないで思わず目を逸らしてしまった。

 ごめん、秀人。

 実際のところ、迷っている。

 理由を言うつもりはないけど、みんなに何も言わず黙って距離を置くべきか、私に関わるなと言ってしまうか。

 理由もなしにそんな事を言ったところで、誰も納得しないのは分かってる。

 でも言い続ければ、少なくとも何も言わないよりは早く伝わるんじゃないだろうか。

 休み時間までに考えとかねえとな。

 窓の外を見ると、とうとう雨が降り出していた。
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