宝物〜絆〜
『はい。どちら様でしょうか?』

 聞こえてきたのは若い女の声。恐らく一番よく見かける使用人の女だろう。

「あっ、すみません。晃くんの友人の立川ですけど、晃くんいらっしゃいますか?」

 俺はアホみたいに丁寧な言葉遣いで尋ねる。

『立川様ですね。申し訳ございません。晃坊ちゃまは先程、外出されまして不在です。一緒におられるのはお連れの方ですか?』

 カメラで見ているのか、秀人の事を確認してきた。

「はい。友人の神城です。何時くらいに戻るかは、ご存知ないですか?」

 念のため戻る時間を聞いてみたが、生憎聞いていないようだった。

 ただ、出かけたばかりだと言っていたから当分は帰って来ないだろう。

 俺たちは相手にお礼を言って、その場から離れる。

「さすがにいつ戻るかも分かんねえんじゃ、待つ訳にもいかねえよな。日を改めるか」

 俺は路肩に停めていた単車に跨がりながら呟いた。
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