宝物〜絆〜
 テーブルにグラスを並べてから再びキッチンに向かい、折りたたみ式の椅子を持ち出す。普段は換気扇の前でタバコを吸うから、そこに置いてあるのだ。

 椅子を運んでる最中、インターフォンが鳴った。

「茜、もう着いたみたいだね」

 唯が首を傾げて呟く。

「そうだな」

 私はキッチンとリビングを隔てるカウンターに椅子を立てかけて玄関に向かった。

 ドアの前に立ってんのが茜だと確認した私は、静かにドアを開ける。

 少し俯いて口を開こうとしない茜の表情は、いつになく暗い。

「どうぞ。上がって」

 茜の悲しげな顔を見るのが辛くて、必要以上に明るく言う。

「お邪魔します……」

 ポツリと呟くと、玄関で靴を脱ぎ、私の方に向き直って続けた。

「美咲、ごめんね……。本当に、ごめん」

 予想外の言葉に、状況が理解出来ない。茜は怒ってんじゃなかったのか?

「何で茜が謝んの? 私は茜に謝られるような事なんてされてねえよ? つーか、謝るのはこっちの方だし」

「美咲……」

 茜は、その場で泣き崩れてしまう。

 私は茜をそっと抱きとめ、リビングへと案内した。
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