宝物〜絆〜
「茜? 私は茜の泣き顔を見るのが一番辛いんだよ。だからさ、笑って? 顔を上げてさ。茜は何も悪くないんだから」

 耳元で囁いた私の言葉は、しっかり茜に届いたようで、泣き濡れた顔を上げて小さく笑った。

 その笑顔が痛々しくて、また胸が痛んだ。

「美咲……。本当にごめん」

 茜は声にならない声を、絞り出すようにして呟いた。

 私は茜の顔の前で両手をパシッと合わせてから笑顔で返す。

「だから茜が謝る事、ないんだってば。ほら、ずっと泣いてっと、目が腫れちまうぞ? 洗面所で顔洗ってきな」

 わざと軽い口調で言い、場の空気を変えようとした。

 そして半ば強引に洗面所に行くように勧めたのは、唯に頼みたい事があったからってのもある。
< 47 / 475 >

この作品をシェア

pagetop